衆議院議員手塚よしおWEB。立憲民主党 東京都第5区(世田谷)。都議1期、衆院5期、元内閣総理大臣補佐官。現在、立憲民主党幹事長代理、東京都連幹事長など。

2011年8月1日 内野席「悪党」伊藤 悠

人はお化け屋敷が好きな生き物である。
非日常の世界に片足だけ入れて、酒場で通用する話題を持ち逃げしたい生き物なのかもしれません。ヤクザ映画にはまるのは、なにも任侠の人だけでなく、おとなしい会社員だって、そのスリルを片足だけ突っ込もうと菅原文太にはまります。
「おい石川、これからは事務所の歯車になるんだぞ!」
いかにも「仁義なき戦い」の中で、若頭が新米の極道にかけるセリフのようですが、実は最近有名になった単行本に出てくるフレーズです。
石川とは、小沢一郎氏の元秘書で、4億円事件で立件されている石川知裕衆議院議員。まだ38歳。
彼の本が売れる理由は、怖いもの見たさ。なんせ本のタイトルが「悪党小沢一郎に仕えて」ですから、そのタイトルを付けたこと自体が、ホラーの始まりではないかと思わせます。おいおい、大丈夫かよ、そんなタイトルつけちゃって。怒った小沢一郎氏の顔写真が表紙にあるものですから、その迫力は書店でも異様なオーラを放っています。
書店でこの1冊を目にしたとき、私は
「あーあ、石川さんもやっちゃったな!」
と思いました。いかに永年仕えた秘書とはいえ、「悪党」と呼ばれてうれしい親方はいません。
「いや、本が売れるように」
とか、
「少しでも注目してもらいたくて」
と言ったところで、元秘書は元秘書。雇い主の政治家のプライドにかけて、許されるはずがないと思いました。
まさに怖いもの見たさ。タイトル通り、小沢氏を本気で怒らせる中身なら、捨て身の1冊となるし、中身がないなら、墓穴の1冊。お化け屋敷にそーっと足を踏み入れる感覚でページをめくってみたのです。
拘置所から釈放された悪党の番頭こと石川被告が、ようやくシャバの世界に戻り、深沢の小沢邸を訪ねるシーンがあります。自分の政治資金問題が原因で秘書だった石川氏が逮捕され、ようやく釈放されたのですから、どんな悪党の世界でも、尾頭付きのメデ鯛で釈放祝いをするのが仁義ってもんでしょう。ところが、そこは小沢流。なんと、釈放の報告に訪れた石川氏にかけた言葉は
「おー」
だけ!
「ご苦労だったな」
でも
「悪かったな」
でもなく
「おー」
だけ。寝起きの挨拶並なのです。
さすがに石川氏も
「おー」
じゃないだろ!心境を告白し、「ものぐさ」なのだと論評しています。
ものぐさな小沢氏の息づかいを伝えるエピソードは「悪党」のなかで枚挙に暇がなく、絶対に携帯を持たないとか、野中広務官房長官の電話にさえ出ないなど、秘書だった石川氏の当時のため息が聞こえてきそうな思い出に溢れています。
そう、この本の不思議さは「お化け屋敷」のつもりでめくったページにのめり込み、いつの間にか小沢氏と石川氏が紡いだ思い出の数々を、懐かしの映像のように読者が共有、共感して行くことです。怖いもの見たさで手を伸ばした1冊に、終わってみれば寂しさ切なさを覚えるのですから、不思議といえば不思議。いや、一番、不思議なのは「悪党」にして「ものぐさ」な人が、逮捕までされた人をして、感涙を誘う1冊を書かせたことです。
「悪党」といいつつ、世間から悪党を強要されている小沢氏の「孤独さ」を描いた「悪党」は、人間の持つ立体性を表現した非常に優れた1冊でした。
今月中には、また民進党の新しい代表選びがあるはずです。何が小沢グループの原動力なのか? 何が小沢グループを支えているのか? その社風を知る上で有意義な1冊ですから、僕らには必読書かもしれません。

内野席・外野席

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