衆議院議員手塚よしおWEB。立憲民主党 東京都第5区(世田谷)。都議1期、衆院5期、元内閣総理大臣補佐官。現在、立憲民主党幹事長代理、東京都連幹事長など。

2005年3月15日 内野席「板前ものがたり 終章」伊藤 悠

この世界は「一寸先は闇」とはよく言ったもんで、中1ヶ月もあると信じられないことが起こるものです。
「いやー、オヤジさん、あんなことってあるんですかね?永田町に店を構える立派な花板が強制わいせつだなんて、信じられませんよ。たったの一日で暖簾たたむことになっちまったんですから、お客はもとより家族もたまったもんじゃないでしょうに…」
「ほんとだな。今頃は、あの板さんから暖簾をもらおうとしていた若い弟子さんたちが、街に貼っちまったポスターはがすのに必死だって言うじゃないか。えっ、何て言ってポスターはがすんだ?下げた頭に唾されるような思いでポスターはがしに回んなきゃいけねぇんだぞ。若い弟子さんたちもかわいそうになぁ」
「オヤジさんも出店まであと4ヶ月ないんですから、気ぃつけて下さいね」
「うん、そうだなって、バカヤロー斉藤!俺が六本木であんな飲み方するかってんだ。行くなら五本木に決まってんだろ!」
「いやいや、そういう問題じゃないんですけどね」
今日も揺らめく暖簾の隙間から、酒と肴の匂いとともに、ほんのりこぼれる店灯り。「手塚」の暖簾が今日もしっかり客を迎え入れている。と、思ったら今夜は珍しいお客さんの背中が見えた。
「あれれ、オジキ、珍しいじゃないですか?いゃーちょうど噂してたとこなんですけどね。ご無沙汰しておりました」
「おい、すっかり偉くなっちゃったんじゃないのか?7月に東京進出だって?手塚も寝首かかれねえようにしねぇとな」
「なに言ってんですか。寝首かけるほど細い首じゃないことは、オジキが一番知ってんじゃないですか?」
ぽっかり口を開けた斉藤が?顔で二人を見やる。
「オヤジさん、どなた様ですか?」
「どなたですかって、こちらは手塚のオヤジさんとは同じ年の兄弟分、巷じゃ話題の宇佐美登師匠よ」
「て、ことは10月に?」
「まったく参っちまったよ、この件には。おかげで今度は石原の三男が隣町から越してくるっていうじゃねえか。相手は一人じゃねえぞ。南部警察に、あぶない刑事、そんでもって織田信長まで出て来て、太陽にほえるんだぞ。迷惑なこったよなぁ?ところで今日は面白い講釈が聞けるそうじゃねえか。一緒に聞かせてもらうとするよ」
すっかり出来上がっている宇佐美のオジキも囲んで、先月の続きが始まった。
「さて、キンキ6枚をどうするかって、とこまで話したんだよな。そうだ、公太朗がおでこてからしていいとこ突いてたんだなぁ」
「はい、冷凍はどうですかって伺いました」
「正解への第一歩だよ。おい、春、聞いてんのか?お前ならどうするよ?えっ?なんだって?自分なら全部松田の番頭さんに買ってもらうだと?お前さん、命がいくつあったってたんねぇぞ!」
吹き出す「ぶっ」の声。遠慮なく笑っているのは、俺と宇佐美のオジキと井上のアネゴ。
「おい、おい勘弁してくれよ。誰かまともな答えを出してくれ」
まともと言えば松田の番頭さん。
「伊藤さん、何枚かを自由が丘にいらっしゃるオヤジさんの御袋さまにお届けしたんじゃないですか?」
「さすが、番頭さん。そこだよそこ。いいかい、6枚もキンキがあっても食いきれるもんじゃない。そこで生の状態で未亡人の御袋さまにご持参したわけよ。そりゃ喜んでくれたぞ。なんたって鳩山家からのキンキだからな。御袋さんからも、この坊主、しっかり留守を守ってるって思ってくださるじゃねえか。問題は何枚お分けするかだな。うん?半分の3枚?それも一案だな。だけど未亡人でらっしゃるから、2枚ぐらいが喜ばれるんじゃねえか?それに4枚残しておけば、帰国したオヤジさんが1枚くらいはお裾分けしてくれるってもんだろ?」
うなずく一堂、船をこぐ春望。
「おい春、寝てるとまた顔中に落書きされるぞ!まっ、それが正月のキンキ事件だったわけよ。ひとつ参考にしておくれ」
はなし家なら扇子を着物にしまおうかというところだが、「くっくっ」と笑う声あり。
「おい、悠よ。お前、それで話しまいにしようとてんじゃねえだろうな?」
「へっ?何ですかいオジキ?」
「へっ?じゃねえだろ?若い弟子たちにはごまかせても、こちとら暖簾かけてる板にはお見通しだぞ。おい!お前、さっきからキンキは6枚だったって言ってやがったけど、誰がそれ証明できんだ?鳩山の大オヤジさんのところに行ったのは正月だったよな?鳩山の大オヤジさんていゃー、そりゃ礼儀にうるせえお人だぞ。正月のめでたい日に、中途半端な6枚なんて枚数包まれると思うかい?いやーない、絶対ないな。本当は8枚だったんじゃねえのか?普通は末広がりだろ?どうだ?」
「なに言ってんすか!オジキ!」
「いゃ、間違いない!お前、食ったろ?食っちまったろ?吐け、吐いちまえ!」
「もう吐けねえ、いや違った。食ってませんよ!あっ、何だ何だ、お前らその目は?おい、さっきまで尊敬してますって顔してたじゃねえか?おい、斉藤、お前まで猿みてぇな顔して何やってんだ?何でお前が公太朗の茶碗洗ってんだ?」
政界は一寸先が闇とはよく言ったもんです。暖簾の先から漏れ出す笑いと罵声。この若者たちがまた新しい暖簾を作り出す?(完)

内野席・外野席

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